洋画

君の名前で僕を呼んで 桃とオールナイト体験

Call me by your name

目次

京都みなみ会館 ティモシー・シャラメNight

オールナイト

映画のオールナイト企画をご存じでしょうか。
夜の11時頃から朝の6時頃まで、夜な夜なテーマによって厳選された3本程の映画を観るのがオールナイト企画。
私は東京にいるときは新文芸坐のオールナイト企画によく足を運んでいました。

実はこの映画はずっと観たくてタイミングが悪く諦めてBlu-rayで観ようと思っていました。
しかし、運のいいことに京都みなみ会館でティモシー・シャラメNightをやるというではないですか!
今まで監督のオールナイト企画はあれど、俳優の企画は京都みなみ会館ではなかった。
その第一弾にティモシー・シャラメを選んでくれた京都みなみ会館、そして吉田館長に感謝申し上げたい。

プログラム

年代別に上映するか迷ったそうだが、『君の名前で僕を呼んで』で朝を迎えてほしいという吉田館長の思いから、
『ホット・サマー・ナイツ』→『ビューティフル・ボーイ』→『君の名前で僕を呼んで』
という上映順となった。

よく考えたら三本のうち二本が薬物関係の話でしたね。
個人的に『君の名前で僕を呼んで』を観終えて迎える京都での朝は最高にエモーショナルだったので、この順番で間違いなかったと思います。
徐々にティモシーの演技に慣れて行ってクライマックスを迎える感じでした。
そして他の2本もとても良い作品なので是非観て頂きたい!!!


ティモシー・シャラメ

日本でティモシー・シャラメの代表作といえば、この『君の名前で僕を呼んで』が挙げられるでしょう。
例にもれず私もずっとそうだと思っていたし、残念ながらティモシーの演技をちゃんと観たことがなかったので、彼の何がそこまで人を惹きつけるのか分かりませんでした。
でも、一度スクリーンで彼の演技を観てしまうと、ティモシーの存在自体が映画そのもののような奇妙な感覚でのめり込んでいってしまいました。
圧倒的な美しさもさることながら、可愛さもあり。演技もキャラクターにしっかり寄り添っていて観ているこっちが安心できる。私は映画も本もキャラ読みすることが多いのでキャラクターをしっかり理解して演じてくれる俳優さんだと想像が膨らみます。

勿論。映画が終わった後に速攻でティモシー・シャラメのinstagramをフォローしてしまいましたよね。

『君の名前で僕を呼んで』エリオとオリヴァーの関係

この映画はゲイ同士の恋愛ものというように言われることが多いと思いますが、私はこの二人においては’ゲイとか’同性愛’という言葉で片付けられるものではないと思っています。
また、あえてそのような言葉で表現するならばエリオもオリヴァーも’バイセクシャル’と言えるでしょう。
男性も女性も平等に愛することができる。
そもそも同性愛だろうが異性愛だろうが愛であることに違いはないのですから。

エリオ

大学教授の父をもつ17歳の男の子。
父の仕事の関係からか年上との接し方が上手く、知識も豊富で博識。
最初はオリヴァーの態度に反感を覚えているものの、一緒に町に行ったり、泳ぎに行ったりと過ごしていくうちに恋心を抱きます。
そもそもガールフレンドがいるのにも関わらず、最初からオリヴァーに関心(反感も関心の一つ)を持ち下着を物色したり、同じモチーフのアクセサリーを身に着けたりと遠回しなアプローチをオリヴァーにしていきます。
エリオは未熟であるがゆえに自分に自信がなく、オリヴァーへの恋心に素直にYesと言えず「いけないことをしているのではないか」と逡巡しています。

エリオがオリヴァーのシャツを持つとき、下着を物色するとき、二人で性行為に及ぶとき、オリヴァーの結婚を知り涙するとき…
常にかすかですが蠅の羽音がして、画面にも映っています。
エリオの父が研究する対象はどうやら西洋彫刻に関するものであるようで、そういう意味では西洋の’神’という存在は映画としても重要なモチーフでもあります。
ハエの王=ベルゼブブはキリスト教において悪魔の一人とされており、本来は豊穣の神であったともされており、その崇拝者は豊穣を祈る性的な儀式を行ったともいわれていることを考えると、蠅はエリオや当時の環境下においてオリヴァーへの恋心が邪悪なものと見なされるという示唆と、そこには成長に伴い性的な要素も含まれると考えてよいでしょう。

自分はこの地にとどまる人間として、オリヴァーを追いかけることは出来ず待つことしかできない。
そんな焦燥感が映画の後半に向けて、エリオの行動に現れてきます。

オリヴァー

エリオの父の助手として招待された大学院生。
エリオとは真逆の性格で、社交的かつ自信家でアプローチも積極的です。

原作を読んでいないのであくまで想像ですが、彼が普段暮らしていた環境はきっと抑圧的かつオリヴァーにたいして理想の役割を果たすことを半ば強制するようなものだったのではないでしょうか。
その反動のように、エリオの家族に対してオリヴァーは自分勝手な振る舞いが多いきがしました。
それはエリオの家族がそういう自分を受け入れてくれるということを見越して、ということもあると思います。
初日から「疲れたから」といって招待された食事を断る。
‘Later’と言ってすぐにいなくなる。

エリオに対するアプローチも直接的で、講習の面前でボディタッチまでやってのけます。

でもそんな彼がイタリアを去ったあと女性と結婚する。
体裁を保って皆の信じるオリヴァーという存在を演じることができるのが、彼の凄いところでもあり、エリオにとっては残酷なところでもあるのです。

『君の名前で僕を呼んで』家族や周囲の反応

エリオの家族は先進的な価値観

エリオの家族は1980年代にしてはかなり先進的で寛容的だなと思います。
父は完全にエリオのオリヴァーに対する感情に気づいていましたし、直接言及はしなくても母親もきっと知っていたでしょう。(星のネックレスに言及していますし。)
物語の中では衝撃的でもあり、救いでもあるのがエリオの父の包容力です。
「二人のことが羨ましい」とまで言って旅から帰ってきたエリオを慰めていますし、自分にも結実しなかったがそういう経験があるとエリオに言って聞かせています。

現実でここまで理想的な対応をするのは難しいかもしれませんが、物語の中とは言えどエリオが家族に守られており周囲から糾弾されることもなく、オリヴァーとの恋を胸に成長することが出来ることを思うと本当に良かったと思います。

又、オリヴァーに対しても(エリオの気持ちを知っていたからかもしれませんが)家族同様に扱い、いつでも遊びにおいでと言って見送りに出ている姿が本当に理想郷のような家族だなという印象でした。

『君の名前で僕を呼んで』映画全体の印象

ゆったりと、でも残酷に過ぎていく時間

人によってはこの映画の中で流れる時間はゆっくり過ぎると思う人もいるかもしれません。
エリオとオリヴァーにとっては短い夏の休暇、しかも殆どの描写が二人の微妙なアプローチやつかず離れずのやり取りを映しているものです。

イタリアの青い空や美しい建築、青々と茂った緑…
映像としては写実的で美しいですがやはりこの映画を引っ張って行っているのは役者たちだなという印象でした。
もしかしたら、ハマらない人には全くハマらない映画かもしれません。

それでも、文学でいえば純文学のような雰囲気の映画でかつ現代的。
すごく日本人好みの映画なのではないかと思います。
キャラクターの行動の行間を読んだり、映像にちりばめられたメタファーを拾い上げたりする見方が必要になってくるのでそういう繊細な見方が出来る人に向いているように思いました。
ただ私は西洋美術などには疎いので彫刻の意味などは拾い上げられない部分も多くありました。そういう教養がある人ならもっと楽しめるかもしれませんね。

桃のシーン

最も印象に残ったシーンはやはりエリオが桃で自慰行為をするシーン。
オリヴァーとの別れが近づくにつれて焦りと悲しさが襲ってきて、紛らわすようにオリヴァーにしてもらったのを思い返しながら桃で自慰行為をしてしまうという衝撃的なシーンです。

まずティモシー・シャラメが美しすぎるんですね。
こんな美しい少年の自慰行為を見ることなんて絶対にないはずなのに、演技で肝心な部分は隠されているとはいえどそれを見ているという状況に何というか背徳感を感じる時間でもありました。

桃のみずみずしさも相まって滴る果汁がまたエロティックで生々しい。
しかもそれを、オリヴァーに発見されてしまうのは笑ってしまうと同時にエリオのことを更に愛しくなっただろうなと色々と想像してしまうわけですね。
ひと際日本的なエロティシズムだなと感じたシーンでした。
この映像を最後に朝の少し冷たい空気のなかを歩いて帰るオールナイトは、自分の残してきた青春や出会ってきた人達との関わりに思いをはせながら妙に悲しくも懐かしくなる。最高の終わり方を味わいました。

なお、ルカ・グァダニーノ監督は桃に思い入れがあるようでいつか自分の庭で桃を育てるのが夢なんだとか。そういうところから着想を得ているのは微笑ましいですね。今回使われているのはイタリアの桃だそうですが、本当は日本の白桃を使いたかったらしいです。

ラストの長回し

冬の雪が降る中でのパーティーの準備をする両親を背にしながら、暖炉に向かって声を出さずに涙を流すエリオのを映す長回しのシーンでこの映画は終わります。
自分の片割れのようにあの夏から思ってきたオリヴァーの結婚を知って、それでもなおオリヴァーの中に自分がいる。勿論エリオの中にもオリヴァーがいつづける。そう知りながらも恋愛としては諦めなければいけない現実と向き合おうとする健気さが表情と涙から伝わってきました。

ああ、きっとエリオはこの先ずっとオリヴァーのことを想い続けるのだなと思うとこちらまで胸が苦しくなりました。

『君の名前で僕を呼んで』まとめ

『君の名前で僕を呼んで』という題名はオリヴァーがエリオと肉体関係を結んだあとに、エリオに対して言うセリフからとられたものです。現代だと『Call Me By Your Name』ですが邦題でもその美しさが損なわれることなく表現されていて、良い邦題だなと感じます。

私が学生の頃「ニコイチ」という言葉が流行りました。
二人で一つという意味の若者言葉でよくプリクラに友達が書いていたのを思い出します。
『君の名前で僕を呼んで』はまさに人間の体と精神は一つしか与えられないものの、存在としては二人で一つでありその片割れを私たちは探している。そして、その相手の中に自分自身を見出し生き続けるということを文学的な美しさで描いています。

名前という最大のアイデンティティで愛情を表現するというのは最高にエモーショナルで、インパクトがある行為でしょう。
映画としての大筋のストーリーはありきたりかもしれませんがこういうエリオとオリヴァーのやり取りや行為の美しさという意味で脚本は素晴らしいと思います。
※実際にアカデミー賞の脚本賞を受賞していますね。

原作ではこの物語の続きまで書かれているのと、アンドレ・アシマンによる続編小説『Find Me』がアメリカで発売されましたね!!これは読まない訳にはいかないと思います。
また、AmazonのAudibleで音声ナレーションで小説を読むことができて『Call Me By Your Name』は何とオリヴァー役のアーミー・ハマーがナレーションを務めるバージョンがあります。
これはファン必読(聴)の一冊かもしれませんね。

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