洋画

ドクター・スリープ シャイニング好きが観た感想

ドクター・スリープ

私は高校生の頃にキューブリック作品に触れて、映画の世界に引き込まれました。監督論などは深く触れてきてはいれませんが、キューブリック作品に深い思い入れがあるという前提での感想となります。

目次

『ドクター・スリープ』続編として

『ドクター・スリープ』を観たい!と思った人の多くは、前作の『シャイニング』を観たことがある人や知っている人が多いと思います。
私も『シャイニング』が好きで怖いもの見たさで続編と聞き飛んできたくちです。
続編として果たして成功したのか、失敗したのか気になりますよね。
前作ファンが喜ぶポイントも踏まえてお話していきます!

スティーヴン・キングとキューブリック遺族からの承認

前作の『シャイニング』は原作者のスティーヴン・キングに嫌われている作品である。ということを知っている人は多いのではないでしょうか。
今作『ドクター・スリープ』を作るにあたって一番大変なのは、前作『シャイニング』の続編としてキューブリック遺族から続編として認めてもらいつつ、原作者のスティーヴン・キングからも続編兼著作の映画化として認めてもらうことです。
結果的にどちらからもOKをもらえたということがこの映画の第一の評価できる点だということです。
映画後半のオーバールックホテルの再現はワーナーブ・ラザーズからの資料提供がかなりあったようで、再現の時間をかなり短縮できたようです。

『シャイニング』ファンが喜ぶかもしれないポイント

それでは『ドクター・スリープ』において、前作の『シャイニング』ファンを喜ばせる要素はあったのか?
あるとすれば四点のみだと思います。
1.『シャイニング』のカットの挿入
2.『シャイニング』登場人物の再現
3.『シャイニング』セット(オーバールックホテル)の再現
4.ダニー・ロイドのカメオ出演(?)

『ドクター・スリープ』の前半は登場人物以外は殆ど『シャイニング』の要素はなく、新登場のキャラクターであるアブラとローズの対決がメインとなっており、後半になってようやく前作の舞台であるオーバールックホテルに場所が移動するため前作の要素を求めて観た人は物足りなさを感じると思います。

『シャイニング』のカットの挿入

オーバールックホテルに舞台を移してから、『シャイニング』のカットが三回挿入されます。
1.ジャックがトイレの扉を斧で破るシーン
2.ウェンディがジャックに対してバットを振るう階段の場面
3.ジャックが斧をもって廊下を歩く場面

それぞれがダンの現在の場面とシンクロして見えるように挿入されています。
ジャック同様、斧で破られた隙間からトイレを覗くダン。
ローズから逃れるため斧を振るうダン。
亡霊に体を乗っ取られてアブラを追うダン。
それぞれのダンがまるでジャックの跡を追っていくかのような演出がなされています。

『シャイニング』登場人物の再現

再現されている人物はかなり多いです。
主要人物と主要亡霊の殆どといっていいと思います。
個人的には犬男は出てこないんかい!とツッコミたかったですが。
それぞれの再現度は高いと思いますが、あまり恐怖映画感は感じられませんでした。
どちらかというとホームドラマ系に感じてしまう再現の仕方でした。

オーバールックホテルの再現

後半にオーバールックホテルに向かう場面から前作へのファンサービスが始まります。
『シャイニング』のオープニングを思わせる空撮(若干低空気味だと思いましたが)と音楽から始まり、ホテルの外観と内観が再現されています。
ボイラー室から237号室まで一から十までとはいきませんが、雰囲気だけはそれなりに再現されていたと思います。
タイプライターはあえてオフホワイトの前半バージョンに統一したのは、ワーナー・ブラザーズが提供した資料に基づいたというよりも’シャイニングを観た後に残った記憶’に基づいて再現されているからだそうです。
キューブリック監督も撮っている最中にいくつか設定を変更しているので、資料通りにやっても『シャイニング』の世界は完全再現できないという点も理由として挙げられるでしょう。
私の記憶は後半バージョンのグレーのイメージだったので意外ではありましたが、今回はタイプライター自体は使われない象徴としての置物のようなものなのでそれでもいいのかなと思いました。

個人的には好きだったインディアンの少女の絵が見当たらなかったのが残念でした。

ダニー・ロイドのカメオ出演

現在は俳優活動はしておらず教授として生計をたてているダニー・ロイド(『シャイニング』のダニー役)が出演しています。本人はカメオ出演と聞いていたようですが、エンドロールに載っているのでカメオ出演というか特別出演という感じがします。
子供の野球を見に来たパパ役とは、なかなか発見しにくいところにいたようですね。
これから見つけてみるのもいいかもしれません。

疑問点

ダンが箱の中に封じていたオーバールックホテルの亡霊についてです。
オーバールックホテルの亡霊たちはホテルだけに現れる訳ではありません。
決戦後アブラの家にも現れていますし、ダニーの幼少期や青年期にも家に現れています。
それでは彼らの前に現れるのは自分が遭遇した亡霊だけなのでしょうか。
そもそもオーバールックホテルを離れて見える亡霊は亡霊そのものではないと思います。
その場や他の思念のようなものが具現化したときにオーバールックホテルの亡霊の形をして現れるということだと仮定します。
そうしたときに自分が遭遇したものや見たもの以外は現れないと考えるのが妥当です。
本当にそこに現れている訳ではないのなら、見たものしか出てこない訳ですから。

この仮説から考えると、ダンが箱に収めるのは237号室の老婆と、グレイディの二人の娘だけだったはずです。

それにも関わらずダンが解放した亡霊たちはジャックしかみていないロイドやグレイディなんかも出てきています。
一方でウェンディが観た犬男と紳士は出てきていないように見えましたが、盛会じゃね!のおじさんは出てきてますよね…
ダンの前に現れた亡霊たちはどのような基準で現れていたのでしょう。
最後まで私にはわからないまま残ってしまった疑問でした。

ドクター・スリープとシャイニング

『ドクター・スリープ』と前作の『シャイニング』を比較したときに何が違うのでしょうか?
『シャイニング』は原作の改変が多く、スティーヴン・キングから嫌われているほどですが『ドクター・スリープ』はどうだったのかきになりますよね?
前作の設定をどの程度引き継ぎ、原作にはどの程度忠実だったのか。
この2作品の違いについて解説します。

映像作品としての違い

キューブリック監督の『シャイニング』は仮に内容の因果が理解できなくても、映像として観ているだけで意味も分からないが恐怖を覚える類の映画でした。
フラナガン監督の『ドクター・スリープ』はバチバチの善悪バトル合戦、残酷で衝撃的な映像や効果音で脅かしてくるSFアクションホラー映画です。
そもそもの映画としての在り方が違うので単純比較は難しいかもしれません。
しかし、映画というものは言葉で説明しないといけない小説と違い映像作品です。
『ドクター・スリープ』は極端な話、映画で観なければいけない作品か?と問われると答えはNOだと思います。
前作を踏襲しようとしている後半でさえ、ダンがホテルや亡霊の本質についてアブラに律義に答えてしまっています。
それにシャイニングというものがどういった能力なのか、前作ではダニーが「僕が寝ている間にトニーが未来をみせてくれる」という言及しかされませんでした。
だからこそ面白かったのに精神が空を飛んで敵のところへ行けるとか、言霊が使えるとか、相手の頭の中に入れるとか…そういったいわゆる何でもありの超能力として扱われているのは前作のファンからすると「あれ?今、何を観てるんだっけ?」となります。

私は折角なら映像作品として確立されている作品を観たいと思うタイプなので、昨今のCGグラフィックバリバリで美麗で迫力満点が取り柄の映画にされてしまうと面白味に欠けるなと感じてしまいました。

シャイニングを観よう!

『ドクター・スリープ』を観た人の殆どは前作の『シャイニング』を観ている人が殆どかもしれませんが、もし観ていない人がいたら是非観てほしいと思います。
今作で再現されたオーバールックホテルの比較をするのも面白いでしょう。
また前作のセリフ回しが今作でも踏襲されているものもあり、元ネタを知っていると「おっ!あのシーンの!」と胸が熱くなるシチュエーションもあります。

『シャイニング』は映像的に矛盾があるとしても、そんなことを忘れるくらい映像として不気味で後まで残る怖さというものを見事に表現しています。
ハチの巣カーペットの柄の大きさの違い。
三輪車で角を曲がり双子に出会ったときの停止位置。
タイプライターの色の変化。
それらは意味のある変更であり違いであるということが体感できるでしょう。
また、移動撮影のカメラワークも人物の頭が動かずに迫ってくる様子やスムーズな追尾に感嘆するのではないでしょうか。

余談にはなりますがダニー坊やがはちゃめちゃに可愛いのにどこか不気味で最高です。
勿論今作でもかなり近い形で再現されてますが、やっぱり本物は違います。
ああ、ダンは昔こんなに可愛かったのねという気持ちで観てください。

私はダニー坊やが好きすぎてFREAK’S STOREでシャイニングのスウェットを購入してしまいました…

シャイニング ダニーのスウェットを購入レビューFREAK'S STOREで購入した映画『シャイニング』モチーフのスウェットのレビューです。『ドクター・スリープ』が公開され関連グッズが出ている中、このスウェットはこれからの季節優秀な裏ボアやこだわったディティールなど他にない優れた点を紹介します。...

ダンがアブラに「君はありのまま輝けばいい」という旨のセリフを言ったとき、「おやじギャグか…」と突っ込みたくなったのは私だけではないはず。