邦画

リズと青い鳥 disjointからjointまで

リズと青い鳥 by仁
MOVIX京都にて京都アニメーション映画作品 特別上映での鑑賞です

本作は武田綾野著の『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』の映画化。
みぞれと希美に焦点を当てた作品です。
私は原作・派生元のTVアニメ共に未読なので周囲の人物との関係性は深堀できていないかもしれません。
TVアニメでは二人はどのように描かれているのか気になるので、後日見てみようと思います。

目次

『リズと青い鳥』構成

『リズと青い鳥』は現実パートと絵本パートに分かれています。
それぞれの内容について解説していきます。

現実パート

高校三年最後のコンクールに向けての最後のコンクール。
オーボエ担当のみぞれとフルート担当の希美のすれ違いと愛情に近い友情を繊細に描いています。
セリフの言い回しも、アニメというよりもドラマっぽい。より私たちの現実に近い演出になっていて色彩もビビッドというよりは淡い色で構成されています。
実際、みぞれと希美が直接話すシーンよりもお互いの人間関係が日常パートとして中盤まで映し出されているのが特徴的。
ちょっと触れたら粉々に砕けてしまうような危うさが漂うのが現実パートです。

絵本パート

色鮮やかな花々のシーンから始まる絵本パートは声優もセリフ回しもがらっと変わってアニメチック。
オレンジとブルーのコントラストが目にも鮮やかで、背景は水彩調で描かれておりファンシーな雰囲気です。
人物の書き方もデフォルメされた線で描かれます。
現実パートに絵本パートを挟むことで、みぞれと希美の現実をよりリアルに見せるような効果があります。

『リズと青い鳥』キャラクター

『リズと青い鳥』のキャラクターについて考察していきます。
主人公二人と個人的に大好きになった剣崎さんについていろいろ考えてみました。

鎧塚みぞれ

本作の主人公でありヒロイン的存在。
希美の全てが大好きで友情というより、もはや愛情と執着に近い感情を持っています。
あまり感情を表に出さないタイプで一見すると社交的ではない自分の殻に閉じこもりがちなタイプです。
みぞれの目はいつも希美のことを追っていますし、希美のことしか見ていないといっても過言ではありません。
要するに希美以外は全員モブという扱い。

希美が吹奏楽部に誘ってくれた時から、一人でいたみぞれにとって希美は学校という閉じた世界の中で唯一の存在となります。希美に対するほとんど愛情に近い友情が執着に変わり、逆に自分を縛り付けているということに気づきながらそんな関係を愛おしく思って壊したくないと思っているのです。

大好きのハグのシーンでは希美の自分勝手さを責めながらも、希美の足音、笑い声、髪の毛、希美そのものが好きだと言っている通り、みぞれの視点からのショットは希美の揺れる髪の毛や後ろ姿を捉えており、フルートパートの人と談笑する希美の姿を追っています。
意外なことに、みぞれと希美が向かい合っているシーンは多くありません。
中盤までは希美を追いかけるみぞれ、希美のことを遠くから眺めるみぞれという形がとられます。

中盤にさしかかるとみぞれの人間関係に変化が訪れます。
一年生で唯一の後輩にあたる剣崎から’ダブルリードの会’(一言でいえば女子会的な集まり)に誘われるのをきっかけに、最初は断っていた後輩との関係も、オーボエのリード部分を自作していることや青い鳥の羽の話題などを通じて徐々に関わりを持つようになります。
最終的に剣崎の分のリードを作ってあげたり、希美から誘われたプールに剣崎も誘うまでに、
コンクールの出場オーディションに落ちた剣崎が、みぞれに涙を見せられるまでの関係になります。
このことから、みぞれはじっくり人と向き合うことが出来る人物だと言えるでしょう。

傘木希美

みぞれとは対照的な周囲の人と社交的に接することが出来るタイプの人間です。
フルートの後輩たちとも放課後一緒に行動したり、部活動でも「のぞ先輩」と慕われている様子がうかがえます。
中盤までは希美にとってみぞれは数ある友達の中の仲のいい一人に過ぎないような印象を持ちます。
しかし、みぞれが音大受験を新山先生に勧められたことを知るあたりから今までとは違う面を見せてきます。
希美は音大受験をみぞれに対抗して宣言しますが、みぞれに「希美が受けるなら、私も同じところを受ける」と言われ苦い表情を浮かべます。希美はみぞれには才能があり自分にはそれほどの才能はないということを自覚しており、そんな自分にみぞれが執着していることに苛立っているのです。
そして、上辺だけ人と仲良くしている自分(周りに人はいるが実は一人ぼっちというリズと同じ状態)と比較して数が少なくとも人と心を通わせることができるみぞれを羨ましく思っています

吹奏楽部の練習のときも二人の掛け合いが上手くいかず、新山先生はみぞれにべったりついて指導している。
選ばれたのはみぞれで自分ではない…と劣等感でいっぱいです。
しかも、そのあと強がって新山先生に「音大を受験しようと思っている」と伝えるも、「頑張ってね」と言われるに留まり自分の才能のなさを痛感させられます。

希美も対抗意識という点ではみぞれに執着していると言えるでしょう。
自分には才能はないとわかっていながらも、自分もみぞれと同じくらい出来る。そう思っていたかったという願望があります。そして自分を慕ってくれるみぞれをそのままにしておきたいと思っています。

希美がみぞれと違う道をいこうと決心したときは、夕暮れ時に高台で黄昏ているときでしょう。
ピンクと青が交じり合って紫の綺麗な空が映し出されます。
ピンクと青はそれぞれみぞれと希美。今までdisjointだった二人がjointしていく未来をうかがわせる場面です。

そして特徴的なのは希美はみぞれの存在を好きとは言っていないということです。
大好きのハグのシーンでは「みぞれのオーボエが好き」と言っています。
みぞれのオーボエの才能を一番分かってたのは希美だったのでしょう。

剣崎梨々花

原作やTVアニメを見ていないので、それらの位置づけと異なるかもしれません。
彼女の役割はこの映画内において大きいなぁと感じています。
唯一のオーボエ担当の先輩であるみぞれと仲良くなりたくて、’ダブルリードの会’に勇気を出して誘ったり。
希美に自分はみぞれに嫌われているのではないかと相談したり。
しかも相談するときに、みぞれのことを考えすぎて自分の名前を言うときに思わず「鎧…」と言ってしまっています。

度々みぞれの元を訪れては共通の話題を振ってみたりして、すごく素直で気が利く可愛い子だな~と徐々に好きになりました。みぞれが飛び立つ土台の手助けをしてくれたのが剣崎のように思います。

プールに誘ってもらって嬉しそうにLINEで写真を送りつつ、「大好きです」とストレートにみぞれに伝えられるのが素敵なキャラクターですよね。
きっとみぞれは可愛い後輩に「大好き」と言ってもらえて嬉しかったと思います。
みぞれはいつも希美に対して「大好き」と思っていて、希美は「みぞれのオーボエが好き」。
映画内では唯一みぞれの存在を「好き」だと言ってくれたのが剣崎なのです。

『リズと青い鳥』の物語考察

独りぼっちのリズの元へ青い鳥が人間になってやってきます。
人間になった青い鳥は、大好きなリズとともにいることが出来ますが地上に縛られはばたくことができません。
洗濯物が飛ばされたときもぴょんぴょん飛んでいますが地面に縛り付けられています。
一緒にいた少女が青い鳥であることを知ったリズは、空へ自由になってほしいと青い鳥を解放します。

みぞれと希美、どちらがリズでどちらが青い鳥か

序盤から中盤まではみぞれの視点で世界が映されるので、希美が青い鳥でみぞれがリズなのかなと思えます。(これはミスリードですが…)
希美はポニーテイルを揺らしながら跳ねるように歩きますし、実際一人ぼっちのみぞれを吹奏楽部に誘ったのは希美です。
同時にみぞれは希美を手放したくないとリズの側に立って自分と重ねています。
しかし、希美は自分のことをリズでみぞれを青い鳥だと最初から認識しています。
要するに、
みぞれ視点:みぞれ=リズ  希美=青い鳥
希美視点 :みぞれ=青い鳥 希美=リズ

となっています。
この食い違いもあり二人のソロの掛け合いはうまくかみ合いません。

二回もリズと青い鳥の本を読んで理解しようと思えば思うほどみぞれはリズが青い鳥を手放した気持ちが理解できず悩みます。みぞれが自分が青い鳥なのかもしれないと認識したのは新山先生との場面。
「大好きな人を自ら手放すリズの気持ちが全く理解できない」と話すみぞれに対し、「鎧塚さんが青い鳥なら?」と助言します。みぞれが青い鳥なら、「リズの言うことは絶対だから、リズに飛び立てといわれたら飛び立つしかない」と青い鳥の行動に共感してやっと自分が青い鳥であるとわかるのです。

みぞれ視点:みぞれ=青い鳥 希美=リズ
希美視点 :みぞれ=青い鳥 希美=リズ

ここでやっと認識が一致するのです。

みぞれが自分の才能を発揮することで希美のプライドは傷つきますがお互いの関係を再確認することができ、お互いの進むべき道へ背を向けて踏み出すとき初めてみぞれとのぞみの関係はjointします。
希美は左へ、図書館へ普通大学への受験勉強をしに。
みぞれは右へ、音楽室へオーボエの練習をしに。
このシーンの後にピンクと青が重なりあうイメージが挿入されます。

『リズと青い鳥』印象的な場面

『リズと青い鳥』にはメタファーのような印象的な場面が多くあります。
私の気になったシーンを挙げて、それぞれ考察していきます。

希美が歩いてくる最初のシーン

最初のシーンで学校の前で待つみぞれの前に、希美ではない人の足音が聞こえます。
その人が通り過ぎたあと、希美の足音が聞こえます。
この瞬間、音楽がパッと明るくリズミカルなものに変わります。
みぞれが大好きな希美の足音を聞いて嬉しくなっている、そんな気持ちが現れていて素敵な音楽でした。

また、階段をリズミカルに登っていく希美を追いかけているみぞれの視点や階段の上から振り返ってみぞれに声をかける希美のシーンは細やかなみぞれの表情の変化で喜びが伝わってきました。
この一連の流れだけで、どれだけみぞれが希美のことが好きか分かりますね。

フルートの光

偶然反射した希美のフルートの光がみぞれの体をなぜる何気ない日常の場面です。
この場面で距離はありますが、めずらしく二人は向き合っています。
反射する光がキラキラと美しく、思わず見とれてしまいました。
些細なやり取りがみぞれにとって幸せそのものであることが伺えます。
一方で希美は余韻もなくさっさと練習に戻ってしまうというところも、二人の温度差が現れており切ない気持ちにさせられました。

みぞれの演奏シーン

自分が青い鳥であると自覚したみぞれが第三楽章を通しでやりたいと申し出てオーボエを吹く場面。
みぞれ自身でなく、希美が涙を浮かべフルートを握りしめる…完全に負けたという表情を浮かべるのを捉えることでみぞれの本領発揮を表現しています。
そしてずっと窓の外を飛んでいるだけだった鳥の影が、青い鳥となりみぞれと重なって空に飛び立っていく。
ああ、やったんだなとホッとすると同時に希美のことをおもうとすべてを否定されたようで辛くなる場面でした。

disjointからjointへ

学園ものともいえるこの映画ですが、殆どが部活・休み時間・放課後の場面で授業のシーンは人つしかありません。
そこで触れられているのはdisjoint=互いに素であるという数学の定理についての解説です。
これはみぞれと希美のことを示唆しているというのは皆さん思うところかもしれませんね。
連続する二つの整数は互いに素であると言えます。つまり序盤から中盤にかけての二人は交わることのないdisjointの状態ですが、二人が別々の道に分かれ進むことを決めてからjointの関係になるということを表しています。

学校という狭い世界の中で、みぞれは希美に執着するがゆえに愛情に近い感情を抱いていましたがこれからは剣崎との関係を築いたように他の人との関係も築いていくことができるでしょう。
そうすることで、純粋に友達の一人として希美をみることができるのではないでしょうか。

ガラスのような美しく透明な綺麗な部分も汚い部分もおなじくらい見えてしまう世界も、尊い青春の一部でありそこから離れるのは大人になると同時にさみしくもあります。
それでも最後に希美が振り返ってくれたときのみぞれの喜びと驚きの顔を見ると、これからの二人の関係もいいのかもしれないと思わせてくれる、そんな素敵な作品でした。

同じ京都アニメーションの『聲の形』もなかなか人物描写がえぐいです。
映画を観てキャラクター考察をしてみました!!!

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