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『ヤクザと家族』感想 山本賢治の人生からみる家族のかたち 好きすぎてキャラクターを考察

『ヤクザと家族』感想 山本賢治の人生からみる家族のかたち 好きすぎてキャラクターを考察

こんにちは、映画大好き関西OLのめぐみ(@megumi_no)です。

ずっと楽しみにしていた『ヤクザと家族 The Family』を観に行ってきました。
自分的お父さんにしたい芸能人1位の舘ひろしさん、生まれ変わったらお近づきになりたい芸能人1位の綾野剛さん。
このメンツでW主演は見逃せませんよねぇ。
キャスティングの時点で大優勝なんですが、『新聞記者』で脚光を浴びた藤井道人監督の新作ということで映画好きは結構期待してた人が多いはずです。

とりあえず2回見たんですが、まだ2月の段階で今年のベスト10入り確定です!!

普段は映画の見方は人それぞれで、お任せと思っているのですが今回は一言だけ…。
ヤクザと家族 The Family』はヤクザ映画として期待してはいけません。
どちらかというと任侠映画よりです。
一番のオススメは家族のはなしとして観ること。
あとはキャラ読みすることです。

見方によっては期待した程ではないなぁとなってしまう脆さがある『ヤクザと家族 The Family』。
私の感想キャラクターの考察をしていきます!

以下の記事はネタバレを含みます。
未見の方はご注意ください。

『ヤクザと家族 The Family』あらすじ・キャスト

ヤクザと家族 The Family』のあらすじキャストについて解説します。
公式サイトであらすじに関しては結構ネタバレしちゃってるんですよね。
逆に言えば、この映画を楽しむことにおいてストーリーにおいてのネタバレ等は重要ではない。
それ以外のところで十分勝負できるし、面白さがある。
製作側はそう考えているんだろうなーと分かるあらすじです。

となると、何で勝負するのか。
それはやはり映像・音楽・役者でしょう。
キャストがかなり『ヤクザと家族 The Family』の面白味の肝になってきます。
きっと出演している役者さんのファンの方は十分楽しめます。これは補償します。

あらすじ

「新聞記者」が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人監督が、時代の中で排除されていくヤクザたちの姿を3つの時代の価値観で描いていくオリジナル作品。これが初共演となる綾野剛と舘ひろしが、父子の契りを結んだヤクザ役を演じた。1999 年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は、柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。その日暮らしの生活を送り、自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005 年、短気ながら一本気な性格の山本は、ヤクザの世界で男を上げ、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。2019年、14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。

引用元:映画.com

前置きでも書きましたが『ヤクザと家族 The Family』の本質は家族のはなしです。
ですが、タイトルにもある通り舞台としてはヤクザの世界がメインになってきます。
なので本質は家族、舞台装置はヤクザ社会という認識で観るのが正解なのかなと。

そして何よりも重要なのは、ここでいう家族というのは自分で選んだ家族だということです。

生まれてくる環境は選べません。
でも例えば会社や結婚相手のように自分で作る家族や家族に近いコミュニティは選べます。
そういう自分で選び取った家族がどんなに尊いものなのか。
この観点から『ヤクザと家族 The Family』を観ればヤクザ映画として観てしまった人も少し評価が変わるかもしれません。

キャスト

W主演の舘ひろしさん、綾野剛さんは勿論。
本当に全員最高の演技でした。

が、かなり磯村勇斗くんがめちゃ良かった!!!!
私の中の磯村くんのイメージは『きのう、何食べた?』のジルベール役だったので、キャラクターとしてというより本当にそこに翼くんが存在しているかのような。磯村君自身が翼くんそのもののような錯覚に陥ります。
翼の若いころの賢治を彷彿とさせる金髪、そしてオリジナリティを加えた赤いコート。
賢治のことを賢兄と呼ぶその声も、すごく輝きに満ちていて翼の中にある賢治がどんな存在なのか。
翼が画面に映るたびにすべてを目が物語ってるんですよ。
ラストのシーンでの「ちょと、話そうか。」のときの彩をみるその目が少し涙で潤んで、自分を助けてくれた賢治のこと、そして父親がヤクザで殺されたもの同士、父親のことを詳しく知らないまま育ってしまった者同士の目線がそこにありました。

あとは久しぶりに市原隼人さんをスクリーンで観て、イメージの100倍オーラ出てましたね。
私の中のイメージは『リリイ・シュシュのすべて』や『ROOKIES-卒業-』で止まっていたので大人のカッコいい雰囲気が新たに追加されたなあと目が釘付けになりました。
ヤクザ社会から抜けた後の、ちょっと廃れた情けない感じのお父さんの雰囲気はまた違って年月の経過を感じさせました。
ちょっと猫背な感じで眼光が鋭くないとことか。
やっぱりいい役者さんは目の演技が上手いですね。

尾野真千子さんは素で由香を演じてる感じが凄くしました。
最初に『ヤクザと家族 The Family』のオファーを受けたときは
「ついにヤクザ映画のオファーが!!私もこれで極妻になれる!!」と思っていたらキャバクラで働く苦学生の役で逆に驚いたとコメントしていらっしゃいました。
最初に私が『ヤクザと家族 The Family』を観たときは衣装と髪型の影響か、由香が尾野真千子さんだと一瞬では認識できず、徐々に話し方から「あれ、由香って尾野真千子さんが演じていらっしゃる?」と気づきました。
それだけ学生としての由香が以外にも似合っちゃっていて改めて女優さん凄いな!!と改めて感動。
特に賢治とのやりとりは結構アドリブが多かったそうで、何度も綾野剛さんとドラマで共演歴があるだけあるなぁと思いました。
由香の自由で気取らない雰囲気がよく出ていて、賢治のヤクザ社会や友達には見せたことがないような一面を垣間見ることができます。

敵対する侠葉会の川山を演じた駿河太郎もいい役どころでした。
出てくる最初から「こいつ、嫌なやつやなぁ~。」と思える容姿(褒めてます)。
こんなにサングラスに合うヤクザおる???
ていうか本物のヤクザ連れてきたんちゃうん???
とぞわぞわしました。
こういう悪い役ががっちり似合う役者さんは貴重ですよね!
あと相変わらず死に方がエグイ。
こんな死に方(死に様)じゃ天国いけないよ…。

『ヤクザと家族 The Family』キャラクター考察

ヤクザと家族 The Family』にどっぷり浸かった私がキャラクターを考察していきます。
と言いつつキャストのところで簡単に触れてしまっているのですが、『ヤクザと家族 The Family』は本当に魅力的なキャラクターが多いんです。
山本賢治の19歳から最後までを追う形で進んでいく『ヤクザと家族 The Family』ですが、他キャラクターでもう5本くらいアナザーストーリー的な映画が撮れそうなくらいキャラクター作りが緻密にされている印象です。
私がキュンときた登場人物たちの映画に直接的に描かれていない、でも背景にはあるであろう人物像などを考察していこうとおもいます。
全てのキャラクターは流石に多すぎるので、こちらの4人を。

山本賢治
工藤由香
細野竜太
木村翼

※今回は考察というより妄想かもしれないですのでご注意ください。

山本賢治

ヤクザと家族 The Family』の主人公である山本賢治
オープニングは賢治の父親の葬式の場面から始まります。
賢治の家庭事情を考えるに、母親の影がないのでかなり前に離婚しているか死別している可能性があります。
なので賢治が19歳になるまで父親が男で一人で育ててきたことになります。
賢治の家が映る場面で、かなりゴミ屋敷みたいになっている部屋に父親の名前で賞状が転がってるのをみるところ、賢治の父は普段は真面目で勤勉な社会人だったと思われます。
そんな父が薬物に手を付けて自滅していったということがこの状況から読み取れますね。

元々父親が本当のクズだったら、葬式にも来ないだろうし。
それに賢治が恨んでいるのは自分を残して亡くなった父親ではなく、父親が死ぬ原因を作った薬物です。
そして奇妙なことに、街で売人をみつけて憂さ晴らしに薬物と売上金を強奪したことから賢治の運命は大きく変わります。

賢治が柴咲を偶然助けたことも相まって、柴咲組へと入ることを決意する賢治ですが、入るまでの柴咲とのやりとりも本当にエモい。

まず賢治を気に入った柴咲が組に呼んでお鮨をおごるシーン。
賢治を組のイカツイ男たちが囲んで勧誘するんですが、ヤクザの仕事と賢治の父の死因について話が及んだときに柴咲が「うちはシャブはやらねぇよ。」と言うと、「じゃあなにやってんだよ。」と賢治に言われて、「何やってるんだろうなぁ~。」と答えます。
柴咲の経営者としての駄目さがすでに現れていると思いますが、それとは逆にふわっと賢治の棘を優しく包むような言い方で人間性を表していますよね。
そして侠葉会に拉致されて身売りされそうになった時に、柴咲組との関係を疑われたときに「俺は山本賢治じゃ!!!」と賢治が渾身のメンチを切るんですね。
多分それは柴咲に迷惑をかけるのも悪い(貸しを作りたくない)という心もあったでしょうが、賢治の精一杯の強がりですよね。
そして血だらけでボロボロになった賢治に対して柴咲が「なんかえらく頑張ったそうじゃないか。」と言って、ゆっくりと隣にすわって頭をクシャクシャっとするんですよ。
それは転んでけがをして泣くのを我慢して家まで帰ってきた子供を、頑張ったね偉いねと頭をなでてくれる父親そのものなんです。
そこで柴咲の優しさに触れて、賢治はもう子供みたいにボロボロ泣くんですよ。
初めて自分の強がりを頑張りと褒めてくれた存在が柴咲になったんです。
そこから賢治にとって自分の親父といえば柴咲であり、柴咲組は自分が選んだ、そして初めて受け入れてもらえた家族となった始まりでした。

第2章ではヤクザの世界に馴染み、入れ墨もバリバリでしのぎをこなす賢治の少し大人になったような姿と、由香との恋愛においての不慣れで年相応な感じの姿が見られます。
まあ、今まで彼女かそれに近い存在はいたでしょうが本気で好きになったのはこの時が初めてだったのではと思います。
一番怯えていたと言っても過言ではない由香が、賢治の手に刺さった硝子の破片を丁寧に取り除く姿は真っすぐで優しくてそれが心にグッときたのではないかと個人的には思っています。

私が一番好きなのは賢治が由香を呼び出してからのやりとり。
どうやって自分の気持ちを伝えていいのか分からずにホテルに来た由香に対して無理やり抱こうとするんですが、ヤクザ相手にありえないくらい本気で由香が抵抗するんですよね(笑)
※いや笑いごとではないんだがね
思いっきり賢治の頭をバシバシ叩くんですよ。
それにひるんだ賢治が「なんだよお前処女かよ!」「ホテルに来たってことはそういうこと込みってことだろが!!!」と吠えるんですよね。
きっと抵抗されないと思ってたんでしょう。
それに反して由香は「だってママに行けって言われたから来ました。だから来たじゃないですか!」とかいうんですよ。
「誰がお前なんか抱くかバカ。」とか賢治が毒づくと負けじと由香が「は?今ヤろうとしたじゃん。」とか口答えして言った言わないみたいな漫才口論が始まるのが新鮮で賢治の不器用感がでて最高なんです。

で、きっと賢治は独占欲強い人なんですよね。
あと粘着質(笑)
だから仕事の合間に由香に鬼電しちゃうし、電話に出ないとイライラするし、お店の前で待ち伏せして呼び出しとかしちゃう。
で、仕事放り出して由香にデートいくぞって誘うんですが「今日ラストなんで無理です。」ってドライに断られるんですね。賢治は粘着質なので結構粘るんですが「ママに聞かないと。ママの許可とらないと」って由香が言うと、「お前なんでもママママだな。子供か。」とか憎まれ口を叩いちゃって最終的にはクラクションを鳴らし続けて無理やり由香を車に乗せるんです。
そんな不器用な誘い方しかできない賢治バカやなーと愛おしい。

あと海での場面は印象的です。
この映画では海も重要な要素。
賢治の本心、その中でも悲しみみたいな象徴が海のように思うんです。
海に向かう途中で由香が学生であることを初めて聞いた賢治が一言憎まれ口で「いやー老けてんなとおもって。」とかいってひと悶着あるんですが、のちに賢治は彩に「昔は結構綺麗だったんだよ」と言ってるので(笑)
照れ隠しですね。ニヤニヤしちゃいます。
由香と賢治はお互いに血縁の家族がいない身でそういった寂しさを抱えていることが分かるのが海辺のシーンです。
ここからかなり2人は打ち解けるんですよね。

ここ一番の局面で賢治が組のために自分が最後まで山川を殺してきた後に助けを求めるのが由香です。
賢治は由香にだけ駄目な自分や、弱ってる自分をさらけ出せるんです。
由香にすがりついている賢治は、由香だったら心が傷ついてる自分を拒まないという自信があったから。
迷惑をかけたことを詫びて血のついたお金を置いてくあたり女心を分かってないなというのよく出てますよね。

第3章では賢治が出所してきてからの話。
賢治が14年という月日を刑務所の中でどのように過ごしてきたのかを外伝的に作ってほしい感がめっちゃあります。
円盤になるときに脚本とかちょっと出してください製作さん。
ここで暴対法の影響を受けて、そして経営自体が上手くいかなかった柴咲組はシマを侠葉会に奪われて、しのぎは夜の海での密漁という始末。
ヤクザは携帯を新規契約することも難しく、ヤクザをやめて堅気になろうと思っても5年間は口座も保険も家も契約できない。
そんな反社が市民権を失った現代で、以前の仲間だった細野からはヤクザから奢られるのはご免だと言われもう以前の仲間や家族の関係ではなくなったことを賢治は実感します。

自分の選んだ柴咲組という家族がどんどん壊れていく様子をみて賢治は苦しかったと思います。
居場所がないという気持ちで、由香の行方を細野に聞いてなんとか再開にこぎつけるんですよね。
賢治が選んだ場所のもう一つが由香という人なので、一緒になろうと。
でもここで自分と由香の子供がいることを知ってしまいます。

柴咲は賢治のことをよく見ているので、由香といい関係になっている時も真っ先に「女ができたか?」と言ってました。
今回も賢治が由香と子供の彩のことで悩んでいること、今の組のしのぎの内容が病床ながらに分かっていたんですよね。
それで「賢坊、お前組抜けろ。まだ間に合う。」と提言します。

今まで賢治にとっては自身を地元の閉鎖的空間に縛るものでした。
でも由香と彩と一緒に温かい朝食を囲むとき、由香の作ったポトフから湯気が立ち込めてすごく小さな大切な幸せの象徴になるんです。
こんな私たちが見過ごしてるような小さな幸せが賢治にとっては大きな幸せなんだなと思うと泣けてしまって…。
彩との会話も本当の父子のよう(本当の父子なんだけど)で…。
「昔のお母さんってどんなだったの?」とか絶対お父さんに聞くじゃないですか。
それを通学の車の中で二人で話してるの、絶対に賢治にとって幸せそのものだったと思います。

ただ、その幸せを自分がヤクザだったこと。その1点において世間から一生許されない。
小さな”普通”の幸せさえも許されないということが本当に悲しいですよね。

賢治は自分のせいで家族が壊れたことを悔いて身を引きます。
由香との関係において、本当の家族を築き少しの時間でも共に時間を過ごせたこと。
自分の娘となる彩を産んでくれたこと。
愛してるということ。
2人がお互いの好意を直接言葉で伝えあうのはお互いが謝罪と身を引くときということが本当に悲しくて、映画に映っていないところでちゃんと「好き」とか「愛してる」とか伝えられてたらいいのにと思ってしまうのです。

賢治にとって別の家族として愛子さんがいます。
愛子さんは賢治のことを気にしてくれていたし、翼は賢治のことを親戚のお兄ちゃんのように慕っています。
お世話になった愛子さんに、そして翼に道を踏み外したりして欲しくない。
悲しい思いをして欲しくないと思っています。

大きくなった翼を頼もしく思う反面、昔の自分をみているような気分にもなったでしょう。
翼の父を殺すきっかけになった侠葉会の加藤と刑事の大迫を殺意に燃えている翼の代わりに殺しに行くのです。
最後の最後まで人のために生きてしまった賢治。

賢治の本質は優しさです。
自分が侠葉会の面々に追いかけられて死ぬかもってときも、住民に対して「どけ!!」じゃなくて「どいて!どいて!!」って言い方だし。
愛子さんの「本当の母親だと思って!」という言葉に対しても「うっせーなババア!」とかじゃなくて「やだよ。もっと綺麗なかあちゃんがいいよ…」とかいうんですよ。
なんか言葉の節々に優しさがにじみ出てるんですよね。
そういうところをもっと観てみたかったです……。

工藤由香

第2章からの登場で出番はまあまあ少ないながらも、とっても大事な役割を担ってくれているキャラクターです。
主に賢治のおちゃめな面や優しさを引き出してくれる人物。

由香も賢治と同様に家族がいない孤独な身です。
そして一人暮らしでキャバクラで学費を稼いでいる苦学生ということ。
そこまでしても勉強したいことがあるというのは、かなり真面目だということが伺えます。
またヤクザの賢治相手に最初はビビっていても、いざというときには反抗したりちょっかいかけたりしていてすごく素直な感じなんですよね。

ただ由香の一番の核の部分は弱い人をほおっておけないという性格

手を怪我した賢治をほおっておけないし、孤独な賢治をほおっておけない。
傷ついてすがってくる賢治をほおっておけない。
そんな由香だからこそ就いた職は役所の「社会福祉課」の職員なんです。
社会福祉課のお仕事は高齢者や生活困難者、障害者などの困りごとを抱えている人を対象にケアをしたり福祉計画を策定させるお仕事。
一言で言えば社会的弱者を助けるためのお仕事です。
これを見た瞬間、あぁすごく由香らしいなぁと思いました。

きっと由香は殺人犯として逮捕される賢治をテレビでみても、賢治の本質が優しいということを知っているし弱い人だと知っているのできっと信じなかった、もしくは気持ちとして信じたくなかったのではないでしょうか。
だからこそ賢治が元ヤクザであるということが職場や世間にバレたとき、賢治に対してヤクザだった過去を責めますが一度も殺人については責めていないんですよ。

妊娠して、しかも父親はヤクザで殺人犯で刑務所で服役中。
親もいない一人暮らしの中で産もうと決心するのも気が強く真面目な由香らしいです。
彩が生まれてから14年間で、きっと彩の中に賢治の面影をみることもあったでしょう。
そういうことを考えると個人的にはやっぱり賢治のことが本当に好きだったからこそ産もうと思えたんじゃないかと思っています。

細野竜太

細野は一番人間臭いキャラクターなのではないでしょうか。
私から言わせると多少ズルい人間だなとも。
賢治との関係は昔からつるんできた悪友というところでしょうが、リーダーが賢治だとするなら2番手が細野で3番手が大原となります。まあ所謂舎弟というやつですかね。
力関係が分かるのは19歳の賢治がシャブを奪ってきたときに奪ったお金の配分について言及するところ。
賢治に対しては対等とまではいきませんがかなり近い距離感で接しているように感じます。

柴咲組に入ってからも基本的に賢治を一番近くで支える役割を担っています。
大原が殺されて山川に対して賢治がけりをつけに行くときも、現場で賢治に殺害用の銃を手渡す重要な役割を受け持っているほどです。

また、賢治が出所してきてから愛子さんの食堂で再会するのも細野です。
最後まで賢治を帰ってくる場所を守ろうとしてきたのも細野ですが結局ヤクザから足を洗うことになります。
暴対法に民間人に車をぶつけられたので、修理代を請求したら逆に警察行きになって「ああ、もう駄目だな」と感じたと言っています。
賢治が出所してくるまで踏ん張ろうとしたというのも本当だと思いますし、本当はもう関わりたくないヤクザだけれど賢治が出所してきたということで一度会おうとしてくれたその男気みたいなのは細野の本質の一部であるというのも本当でしょう。
ただ、彼には柴咲組を抜けてから5年間死にもの狂いで何とか市民権を得て今日まで生きてきたという苦境がある。
この汗水を垂らして死に物狂いで得たものを絶対に手放したくないという強い思いがあるのです。
だから人一倍反社に対する市民の目に対して怯えているところがあり、敏感になっています。
賢治に奢られると借りが出来る。
それは反社の人間と自分の繋がりを明確に示すものであるため絶対に賢治に奢られたくなかった。
この必死さが後々裏目に出るのですが…。

裏を返せば細野は誰よりも賢治のことが好きなんだと言えます。
じゃなければオモニ食堂で由香の行方を賢治に聞かれた後に、本当に調べてきてくれるとかはしないですよね。
しかも柴咲組を抜けてきた賢治のために自分がお世話になってる職場に頭を下げてまで職を斡旋してあげるとかも。
強い愛情は時として強い憎しみに変わる。
その強烈な事実を20年を通して一番悲しい形で表しているのが細野です。

ラストで賢治を刺しながら「あんたさえ戻ってこなければ」と泣きながら言う細野は、精一杯の甘えと気持ちを賢治に押し付けてしまった結末だと思います。

木村翼

翼は柴咲組元組長の木村一とオモニ食堂の愛子との間にできた子供。
普段から母親の愛子は賢治に対して自分の子供のように接してきました。
賢治がヤクザになる前も、なってからも食事といえばオモニ食堂。
つまり翼は賢治のことをずっと見て育ってきました

優しく頭をなでてくれたり、勉強してるのを褒めてくれたり、お小遣いをくれたり。
自分のことを気にかけてくれるカッコいいお兄ちゃんとして見ていたはずです。
そんな賢治が殺人犯として逮捕された後も、翼はずっと尊敬の念を持っていました。
賢治が帰ってきてから「組のために自分から捕まるなんてかっこいい」ということを言っています。

成長した翼は比較的スマートに物事をこなしています
翼がボクシング的な競技に興じてるときに楽に勝っているように見えますが、最後に倒れた相手を何度も何度も殴ってますよね。
冷静にそれをやってのける翼はかなり冷酷で意外と暴力的な一面を秘めてると言えるでしょう。
侠葉会の加藤に呼び出された時も「おっさん」呼ばわりして誘いを一蹴しています。
そして加藤が自分の父を殺した人間だと確信したときの目が憎しみに満ちているのが分かります。
ただ、翼は狡猾なのでそこでキレたりすることはありません。
翼は侠葉会と警察の癒着をしっかり動画で入手していますからね。

ただ、賢治に「親父を殺したやつを見つけた」と告げて「愛子さん悲しませるんじゃねえぞ」と釘を刺されても、加藤殺しを実行しようとします。
結果としては賢治に先を越されることとなりましたが…。

一番ぐっと来るのは賢治が死んだあとですね。
娘の彩が賢治が亡くなった桟橋で献花をした際に翼と遭遇するときに
「私のお父さんてどんな人だったの?」
と聞かれたときに、翼の目が涙で濡れているのが照らされてすごく綺麗なんですよ。
きっと、大好きだった賢治が残した彩という人に対しての賢治の娘に会えたという感情も勿論、自分の親がヤクザで親のことを死ぬ前に知れなかったという同じ境遇であること。
その運命というか、自分を救ってくれた人・大切な人の残した家族が、かつての翼のような境遇の彩が翼自身を頼ってくれる。
それを言葉では言えないけれどこの瞳が物語っていて、翼の「すこし、話そうか。」の一言がとてつもなく優しく感じました。

正直、翼だけの物語も観てみたい。
小学生だった翼がどんな風にしてあのような青年になったのか。
賢治の死と彩との出会いを経て、どのような大人になるのか。
これだけで映画一本作れてしまうんですよね。

『ヤクザと家族 The Family』感想まとめ

とても長くなってしまいましたが『ヤクザと家族 The Family』は賢治が自分の選んだ家族を必死に守り愛しぬく物語です。
ヤクザという環境を考えてしまうと自業自得、ヤクザや反社とはそういうものという風に思う人もいるでしょう。
しかし、この物語の本質はどんな人間にも誰かを純粋に愛する気持ちがあるのだというところだと勝手に感じています。
あまりにも純粋な物語なので、それが胡散臭いと感じる人もいると思います。
それでもいい。それでもいいから賢治が少しでも救われてくれていればと願ってしまう。
鑑賞後そんな気持ちになります。
エンドロールで流れるmillennium paradeの『FAMILIA』のPVは『ヤクザと家族 The Family』のアナザーエンディングのようになっているので是非youtubeで観てみてください。
最後に賢治が笑ってくれているのがせめてもの救いで、このPVを観るたびに私も涙を流してしまいます。

ヤクザの義理人情が通った昔の時代、それに対して今の時代は家族の形も多様化しています。
そんな中で一度の過ちだけで誰かを否定するのも良くないと思います。
一度、この兄貴・親父たちと一緒に家族を作っていた時代を振り返り、現代につなげることによって、自分たちで家族という共同体を作っていく良さと難しさは十分に出ていたのではないでしょうか?

個人的な話ですが、私は結婚しているので自分で選んだ・選ばれた家族がいる身です。
肉親ではなく極論をいえば他人との生活ですが、そこにはお互いへの愛情が確かにあり、配慮があり、未来がある。
日常では小さすぎて気が付くことが出来ない当たり前で小さな幸せを見つけていける。
そんな素敵な物語が『ヤクザと家族 The Family』なのです。
皆さんも現状に不満があるとき、家族と喧嘩したとき、なんとなく親を好きになれないとき…
ヤクザと家族 The Family』を鑑賞してみてはいかがでしょうか。

また、『ヤクザと家族 The Family』で綾野剛の演技に感動した人は、是非『日本で一番悪い奴ら』も観てみてください。
綾野剛さん、こちらはまた別の顔をみせてくれています。