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映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』ネタバレ感想 妖精は館に管理されるべきなのか?中国の民族問題から考察

映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』ネタバレ感想 妖精は館に管理されるべきなのか?中国の民族問題から考察

こんにちは、映画大好き関西OLのめぐみ(@megumi_no)です。

今回は日本語吹き替え版の『羅小黒戦記 ぼくの選ぶ未来』(以降『羅小黒戦記』と表記)を観てきました!!
最近なんだかアニメ映画がアツイですね。
ブログにはあげていませんが『ウルフウォーカー』というアイルランドのアニメ映画も観てきました。
国によってアニメーション表現がちょっとずつ違って色々楽しめます。

現代で大人と言われている人達の中で特に1990年代に生まれた人はアニメが豊作すぎて、大人になってもどっぷりアニメ沼にハマっている人も多いのではないでしょうか?
私もその一人なのですが(笑)
今までハマってきたアニメの良いところをこれでもかと集めてきたのがこの『羅小黒戦記』なのです!!!

本当に騙されたと思って観て欲しい。
絶対に貴方の性癖に刺さるワンシーンがあるはずです。

ちょっと今回はアニメオタク丸出しで行くので、いつもよりIQ低めのブログになるかもしれません。
ですが、ちょっと疑問に感じる顛末もストーリーの中であったので自分なりに中国の少数民族について調べて考察してみました。

以降の文章はネタバレを含みます。
映画を未見の人はご注意ください。

目次

『羅小黒戦記』ストーリー・キャラクター

羅小黒戦記』は日本のアニメではありません。
中国のアニメで短編アニメをWEBで公開したことから火が付いたそう。
そしてこの劇場版はそのWEBアニメの前日譚という設定です。

実は2019年に字幕版で公開してるんですが行けてなかったんですよね。
完全に私のミス…。
中国声優さんの演技も是非観て観たかった(泣)

なんと中国での『羅小黒戦記』の人気は、日本でいうところのポケモンに匹敵するそう!!!
日本人が『ポケットモンスター』のゲームやアニメを知らなくても、ピカチュウというキャラクターを知っているのと同じように中国ではシャオヘイは超人気なのだとか。

分かる。
分かるよ。可愛いもんね。

ストーリー

妖精と人間が共存する世界を舞台に、猫の妖精・羅小黒(ロシャオヘイ)が旅をしながら人間社会を理解していく姿を描いた中国製の劇場アニメ。この世には妖精が実在し、彼らの中には人間の格好をして社会に溶け込んでいるものもいれば、山の奥で隠れて暮らすものもいた。森で楽しい日々送っていた猫の妖精・小黒(シャオヘイ)は、人間たちによって森が切り開かれてしまったことから、暮らす場所を探して放浪する。その旅の途中で妖精のフーシー(風息)、人間のムゲン(無限)と出会ったシャオヘイは、彼らとの交流を通じてさまざまなことを学び、成長していく。「羅小黒戦記」は、中国で2011年から配信がスタートしたWEBアニメシリーズ。国産アニメとして中国で徐々に人気を博し、2019年に劇場版として本作が製作されると大ヒットを記録。日本でも同年、字幕版が小規模公開され(チームジョイ配給)、映画ファンやアニメファンの間で口コミで評判が広がる。これを受けて20年11月にはアニプレックスが共同配給につき、花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏という人気声優陣による日本語吹き替え版「羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来」として全国公開される。

引用元:映画.com『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』

ストーリー自体はそんなに複雑ではありません。
シャオヘイは純粋無垢な存在。
人間だけど妖精に近い力を持ち君主からの命令を実行する立場にあるムゲンと、妖精として妖精らしく伸び伸びと暮らしていきたいフーシーの戦いに巻き込まれる形で話が始まるのです。

まあ、単純に言えば国側の権力(多数派)VS民衆(少数派)みたいな話です。
ここの掘り下げについては後々触れていきますね。

キャラクター

羅小黒戦記』はキャラデザもすっごく可愛い。
そして2時間では収まりきらないくらいたっくさんのキャラクターがいます。
なんなら10秒くらいしか出てこないキャラクターなんかも……。
でも彼らそれぞれモブというわけではなく、きちんと作り込まれた設定なんですよね。
だから映画を観終わってからも彼らの過去や未来を想像したくなる。

要するにキャラ読みしやすい映画なのです!!!

ストーリーは単純でもキャラクターに魅力があると、ただワチャワチャしているだけでも物語が活き活きしてきます。
そして今回は日本語吹き替え版!!
改めて声優さんの優秀さを認識しました。
変に最近の人気俳優さんを起用したりするのではなく、主演級はしっかりベテランの本職声優さんを起用してくれてありがとうございますと言いたい。

正直、『羅小黒戦記』のムゲン師匠を観るまでは宮野真守さんんはネタ枠の声優さんだと思ってたんですよ。
※ファンの方々すみません。
いやぁ。宮野さん素敵ですわ。
あやうく恋に落ちかけました。
なんてイケメンで優しい声なんでしょう。それでいてなんとなく老成されたような落ち着きもしっかり感じる。
(ムゲンは劇場版の時点で437歳の設定なのです。)

中国のムゲン声優さんも落ち着いた素敵なお声だったので、字幕でも観たいんだよなぁ。
早く円盤が日・中・英の吹き替えで出ないかなぁと期待している次第です。

主役級じゃなくてもとってもかわいいキャラがいっぱいいるので、是非『羅小黒戦記』を観るときは目をかっぴらいて自分の好きなキャラクターを探してみてくださいね!!

『羅小黒戦記』ネタバレ感想

ここまで読んで頂いた皆様は私の熱の入り方が尋常ではないということに気づいていただけたと思います。
そう。新しくTwitterで『羅小黒戦記』の妄想アカウントを作ろうか迷うくらい。

なぜ私がこんなに『羅小黒戦記』にハマっているか?
一言で言えばムゲンとシャオヘイの師弟が尊いから!!!
え、じゃあ何がどう尊いの??というのをご説明しますね(笑)

ムゲンとシャオヘイの関係

ムゲンとシャオヘイが出会ったのは全くの偶然です。
あの島に来たムゲンの目的はフーシーの捕獲であり、シャオヘイを捕獲した後に対象ではなかったと気づきます。
正確に言えば、フーシーがシャオヘイに目を付けた時点で最終的に出会う運命にはあったかもしれませんが、あのタイミングでなければ二人がこの師弟関係を築くことはなかったと思います。

ムゲンがシャオヘイを確保したのちに館に向かう道中で何度も脱走を試みるシャオヘイを大人しくさせるため(シャオヘイ的にはムゲンと同じような力を得て強くなり逃走するため)に能力のレッスンをします。
彼らの師弟関係はこの長い旅(ムゲンの方向音痴も相まって)がなければ成立しなかったことでしょう。

もうね、ムゲンがシャオヘイの保護者のように見えてくるんですよね。
あれだけ強いムゲンなのに方向音痴だし、料理はただの焼き魚でさえも上手くできないし、お金なくて食い逃げするし、戦う以外にはポンコツなのも愛おしいです。

そして絶妙なのが、館までの道のりを通してムゲンの良いところや微妙な立場である部分をシャオヘイがしっかり受け止めているところです。
シャオヘイはまだ子供で黒にも白にも染まる存在。
まだどちらでも自分で選べる存在だということをムゲンが理解していること。
さらにシャオヘイの意思を尊重し、ムゲン個人の意見として館に住むのを提唱してはいるが強制はしていないところです。

この二人に限らず、館側の人間も妖精側の人間も一対一で話すととても良い人柄だと分かります。
それを館側・妖精側という側面でのみみてしまうと敵側にいる人は全て悪い人のように思える。
そんな歪みが、シャオヘイの目を通して私たちに人をいかにみるかを教えてくれます。

個人的に好きなシーンやポイント

個人的に好きなシーンやポイントについて、少し語らせてください。
私はムゲンとシャオヘイ師弟推しなのでどうしても二人のことになってしまうのですが…。
大きくあげると3つ!!!

●ムゲンのシャオヘイの扱い方
●ムゲンの話し方
●シャオヘイの純粋さ

一つずつ語らせてください。

ムゲンのシャオヘイの扱い方が最高

まず一つ目。
ムゲンのシャオヘイの扱いをみて凄いコーチングが上手い人間だと思いましたね。
一つ一つの問いにたいして、答えを与えるのではなくてちゃんと傾聴してあげる。
ムゲンは「やってみたい?どうしたい?君はどう思う??」と常にシャオヘイに問いかけています。
シャオヘイは誰かに決められた道を進むのではなく、自分でこうしよう、ああしよう、と失敗しても自分で目標を決めてチャレンジしていくようになっていきました。

そもそも能力の開発も旅の途中でシャオヘイのことをムゲンがきちんと観察していたからできたこと。
空間系の能力を持っていること・シャオヘイが調子に乗りやすい性格であることなどを見抜いたからこそ良い提案ができたのだと感じます。
そしてちゃんとできるようになったら褒める。
そしてフィードバックを返してあげる。
これ、大事ですよね。

そしてシャオヘイが反抗してきても、ちょっといなす感じで対応します。
強制的に押さえつけるのではない対応がネコの扱いを心得ている人間っぽくて好きです。
あと猫のシャオヘイを捕まえるとき首根っこ持って吊り上げるのとか、戦闘中に乱れたシャオヘイの胸当てをノールックでポンポンとなおしてあげるのとかっ!!!!!!
最高です……。

ムゲン師匠はプレイヤー(執行人)としても超優秀なのに、マネージャー(師匠)としても出来ていとか最高の上司です。
うちの職場にムゲンさんがいてくれたら、私もお仕事頑張れるのにな。

ということで世の中のマネージャーの皆様!!!!
是非ムゲン師匠を見習ってくださいませ!!!

ムゲンの話し方

ムゲンは悪く言えば抑揚がなくて、冷たく聞こえがちな話し方をします。
表情も目を細めて笑うことはあまりないですし口のちょっとした角度でごきげんを伺う感じです。

でも話し方も言葉遣いもとても丁寧なんです。

男の人なので語尾が「~だぞ」とかでもおかしくないと思うんです。
でも「~だよ」っていうんですよ!!!

私は丁寧な言葉遣いの男性が好きなので、もうムゲンの話し方が本当に好みで。

あと一人称が「私」なのもいいです。
自分のことを「私は~」「僕は~」というキャラクター好きなんです。
分かる人いますか??

字幕版(中国語)ではどうなっているか分からないので、あくまでも日本語吹き替え版の感想になりますがきっと同じように思った人いらっしゃるはずです。

シャオヘイの純粋さ

シャオヘイが本当に幼く純粋だからこそムゲンの言葉もフーシーの言葉も平等に響いているな。
どちらの主張も間違ってないな。
そう観客にも思わせてくれると感じました。

妖精側にたったらいきなり安息の地に来て襲撃してきたムゲンは悪。
館側にたったら人間に危害を加えようとするフーシーは悪。
対立する気持ちは分かります。

結局ムゲンVSフーシーの戦いはシャオヘイの介入もあってムゲン(館側)の勝利に終わりました。
最後に「フーシーは本当に悪いやつだったのかな?」とシャオヘイはもう一度問い直します。
フーシー達は一人で居場所のなかったシャオヘイをどんな理由であろうと受け入れてくれた。
おいしいお肉を分けてくれた。
歓迎してくれた。頭をなでてくれた。
その事実は変わらない。
だからシャオヘイはフーシーに利用されて殺されかけても「フーシーはいい奴だ。」という認識は変わらないと思います。
それを分かっているからムゲンも「お前の中にちゃんと答えがあるだろう?」と言ってくれます。

ただ、この場合はムゲンにとってフーシーは人間に危害を加え館に反抗する輩という認識も変わりません。
それでもシャオヘイの「フーシーはいい奴だ」という主張を聞いてくれます。
YESともNOともいわず、ただ「お前はそう思うんだね。」と。

シャオヘイの純粋な視線があるからこそ観客である私たちも平等な目線で両者をみることが出来た。
漫画やアニメには主人公VS敵という構図が度々とられますが、この関係が立場や結末によって容易に逆転することもあるということをシャオヘイは教えてくれたのです。

その意味で可愛いだけではないシャオヘイは本当に素敵なキャラクターだと感じました。

『羅小黒戦記』妖精は館に管理されるべきか考察

羅小黒戦記』の世界では人間と妖精が存在し、かつ人間界と妖精会でどのような政治がされているかは言及されていません。
ですが人間に溶け込む形で妖精が生活して”妖精館”がありそれがスタンダードになっている以上は誰かがそのように決めて統治しているのでしょう。

実際の中国の政治をみてみても、長らく皇帝が中国全土を統治していたり、現在も中国共産党の一党独裁制であり伝統的な中国の統治のありかたとしては主君を尊び、統一を重視するものなので妖精界もこのままいくと館に集約されて管理されるようになるのではないか?
1890年代後半にかけてあった日清戦争での敗北後に厳復の著した『論世変之亟』という中国と西洋の違いを示したものの中にこのような一文があります。

~(中略)中国は君主を尊ぶが、西洋は民衆を尊重する。
中国は統一ある言論と行動を重視するが、西洋は政党政治と地方自治を好む。~(中略)

引用元:『論世変之亟』

ある意味中国の独自路線をいくならば妖精たちは統一の対象となっていくでしょう。

更に都市部は近代化が進んでおり妖精も山を追われる始末。
リアルの世界での近代中国は1978年~2017年の間にGDPは年単位でみると9.8%上昇。
第一次産業は28.2%から7.9%に減少しているのに対し、第三次産業は23.9%から51.6%に上昇しています。

この傾向を『羅小黒戦記』の世界でもたどっていると仮定して考えてみましょう。

『羅小黒戦記』の世界と今後

羅小黒戦記』の人間界と妖精界の抗争は現実世界では何に当てはまるか?
中国全土は広大で多数は漢民族であるが、その他に認められているだけでも55の少数民族が存在します。
ある意味人間VS妖精は漢民族VS少数民族のように捉えられるのではないでしょうか。
そう考えて『羅小黒戦記』をみてみると、フーシーの死は何とも苦しく空しい、少数派の敗北を物語っているように見える。

史実においても実際に少数民族が漢民族に対して反抗した例はありました。
明王朝(1368年~1644年)の時代に大部分のミャオ族が漢族に対して対抗。
独自の社会を堅持するために清の時代(1644年~1911年)に及ぶまで抵抗したとのこと。
結果としてミャオ族は敗北してしまいます。

しかも明王朝はミャオ族の反抗に対抗するための作戦を「夷を制するには夷をもってす」としています。
これは漢族側に教化された少数民族を主体とする土兵を使うという作戦。
要するに同じ少数民族同士で争わせるということです。

この例は『羅小黒戦記』で言うと館側の人間(ムゲンたち)が、妖精(シャオヘイ)を取り込んでフーシーと戦わせる。
その結果、反抗して人間を蹴散らして妖精の世界を取り戻そうとしていたフーシー達が敗北する。

この構図にピッタリ当てはまります。
あれ???ムゲンさんてもしかして悪者???とかおもってしまいそうです。
館(ムゲン)に教化された妖精(シャオヘイ)VS妖精(フーシー)という元仲間同士が戦う姿はとても痛々しいものです。

『羅小黒戦記』はWEBアニメの前日譚。
日本語字幕がついているものだけ観ましたが、その後シャオヘイは人間界でネコとして人間に飼われています。
しかも自ら進んでそうしたようにも見えます。
妖精だけでなく人間の生活を知るためでしょうか?
シャオヘイのこの行動は彼が決めたことなのか、それとも館側が誘導したものなのか……。

中国では2005年に『社会主義新農村建設』の目標を掲げています。
これは分散した村落を合併し、農民に集中居住をされる。というもの。
実際に成功してインフラの整備がしやすくなったり、年と農村の格差を縮小されるために役立っている面もありますが、一方で村の内部構造や伝統が失われるという批判もあります。

「館」に妖精を集めて管理する。
管理するというと聞こえが悪い気もしますが、仕事を与えられ、人間の前で妖精とバレないようにするなどの規律の中で生活するのと『社会主義新農村建設』はやっていることは同じですよね。

事実ムゲンはシャオヘイと出会ってからずっと妖精は人間に溶け込んで暮らさなければやがて滅びる運命にあると言っています。
実際フーシーは敗北してしまいましたし、館に保護されている妖精たちは大丈夫でしょうが野良の妖精たちは段々と生活するすべを持てなくなっていくのではないでしょうか。
『羅小黒戦記』のテーマは人間と妖精の共存ですが、この館の体制を共存と言い切ってしまっていいのか疑問は残ります。

妖精にとっては暗い運命が待っているようで少し心ぐるしいです。
が、本編WEBアニメはのほほんとしているのがまだ救われるところですね(泣)

『羅小黒戦記』まとめ

なんだか最後に暗い話になってしまいましたが、『羅小黒戦記』の本当のラストはムゲンとシャオヘイにとってハッピーエンドだと思っているのでオールオーケーです。
人間だけど人間からは「妖精に限りなく近い」として人間としても認められず、妖精からは「人間だから館には住む権利はない」とされて居場所がないムゲンを、シャオヘイは自分から居場所として選んだ。
今まで一人だったムゲンがムゲンとシャオヘイという師弟コンビになった。
それだけで大号泣。大感謝です。

本当に家で何度も何度も見返して、コマ送りとかにして、一コマずつの表情とかを眺めたいので絶対円盤化してください。
その際は各国の吹き替えと字幕をください。
公式さんにこの思いが届いてほしいっ!!!!

羅小黒戦記』は劇場版の制作チーム50名という驚異の少数精鋭。
続編の話もあるようですが、たぶん2~3年かかるとのこと。
適度にWEB本編のデフォルメ感を残しながら動き回るキャラクター達とカメラワークをこの人数で…と考えるとすごく大変な作業と想像できます。
コロナのこともあって大変でしょうが、ずっと続編と円盤待ってるので供給してください。

そしてYoutubeでWEB本編も公開されているので、劇場で『羅小黒戦記』観た人も観損ねた人も是非視聴してみてください。
キャラクターが皆可愛くて好きになるはず!!!

私は中国語分からないので、そこらへん詳しい方はTwitterでいろいろ教えてくれると嬉しいです!!

今回の参考文献
『中国の近代化と社会学史』著/張琢・張萍 翻訳/星明
『中国少数民族事典』著/田畑久夫・新免康・索文清・金丸良子・松岡正子