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『偶然と想像』ネタバレあり感想 乗り物は私たちを平等に運んでくれる

『偶然と想像』ネタバレあり感想 乗り物は私たちを平等に運んでくれる

お久しぶりのブログ更新になってしまいました。
めぐみ(@megumi_no)です!

さて、今年最初の映画館での鑑賞映画は『偶然と想像』となりました。
私のTwitterをみてくださっている方はお分かりだと思いますが、2021年マイベスト映画に輝いた『ドライブ・マイ・カー』の監督、濱口竜之さんの3部オムニバス作品が今回レビューする『偶然と想像』です。

お恥ずかしい話ですが、濱口監督は『ハッピーアワー』から知ってはいたのですがちゃんと観ていませんでした。
なので、昨年『ドライブ・マイ・カー』を観た時はこの監督の作品が好きなのか、役者がよくてハマったのか分かりませんでした。
偶然と想像』は自分と相性のいい監督か見極めるために観ようと思い立ち映画館に向かいました。
結果としては濱口監督作品めちゃくちゃ好きだと判明。
なのでこのレビューもちょっぴり甘く評価しちゃってるかもしれません。

今回は、主に映画内で乗り物がどんな役割を担っているのかについて考えていきます。
以降の記事にはネタバレが含まれますので、作品を未見の方はご注意ください。

目次

『偶然と想像』あらすじ

偶然と想像』は濱口竜介監督の初短編集。
三部とも「偶然」をテーマにした短編となっています。
一つの作品は40分前後のボリュームとなっているので、配信やレンタルで観る場合でもちょっとした隙間時間に観やすいですよね。

『魔法』(よりもっと不確か)あらすじ

撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子(古川琴音)は、仲の良いヘアメイクのつぐみ(玄理)から、彼女が最近会った気になる男性(中島歩)との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。

引用元:『偶然と想像』HP

『扉は開けたままで』あらすじ

作家で教授の瀬川(渋川清彦)は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木(甲斐翔真)の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みをした彼は、同級生の奈緒(森郁月)に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。

引用元:『偶然と想像』HP

『もう一度』あらすじ

高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子(占部房子)は、仙台駅のエスカレーターであや(河井青葉)とすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。

引用元:『偶然と想像』HP

『偶然と想像』感想

実は『偶然と想像』三部作の中で一番好きなのは『魔法(よりもっと不確か)』なんです。
私、古川琴音さんめちゃくちゃ好きなんですよ。
しかも私が卒業した大学の同じ学科の後輩。
朝ドラなんかも出ていらっしゃいましたけど、こういうちょっと癖のある感じの役が似合うよなぁと思っていたので、早く観たくてたまらなかったんです。
最近の映画だと『花束みたいな恋をした』『街の上で [Blu-ray]』にも出ていらっしゃって、『魔法(よりもっと不確か)』では主演だし、最初のシーンで彼女がスクリーンに映った時一気に引き込まれました。
なんだか観てる人が映画の世界にすっと入りやすくなる雰囲気を纏った俳優さんだなと思っていつも見ています。

『魔法(よりもっと不確か)』と『扉は開けたままで』は笑える箇所は勿論あるものの、全体の物語の流れというかリズム(?)としては結構シリアス寄りなのに対して『もう一度』は力が抜けるような作品。
私のTwitterのフォロワーさんも言っていましたが、『もう一度』はバナナマンのコントっぽいんですよね(笑)

物語というのは”偶然“によって色彩をもって生まれてくるので、芸人さんのコントとかもそういう面白い”偶然”によって物語が生まれて笑顔になれるものが多いです。
よく、芸人さんが小説を書いたり、映画を作ったりしても一定のクオリティというかそれ以上に才能を発揮するのは物語を作る能力はコントなどのネタを考えるときと限りなく似ているからかもしれないですね。

それでは三部作『偶然と想像』の中で個人的に気になった乗り物の役割と、主人公たちキャラクターの共通点について考えていきます。

乗り物の役割

まだ『ドライブ・マイ・カー』と『偶然と想像』の二作品しか観てないのに、こんなことを言うのはおこがましいのですが……。
濱口竜介監督の作品の中で”乗り物“ってとても大きい役割を担ってるんです。
後述するのですが、主人公たちは「自分は(少し)異常なところがある」と自覚しています。
一応注釈としていれておくと、本当に異常かどうかというのは重要ではなく彼女たちの中で自分は周囲の常識に照らし合わせたら”普通”ではないから異常であり”異端児”であるのです。

それでは“異端児”である彼女たちが他の人と唯一同じになれる場はどこか。
それが乗り物なんです。
なぜなら、乗り物は乗ってる人が”異端児”であろうがなかろうが、同じ速度で同じ場所に運んでくれるから。
『魔法(よりもっと不確か)』ではタクシーでの親友との移動、『扉は開けたままで』ではバスでの元同級生との移動、『もう一度』では二人がすれ違い様に出会うエスカレーター。
最後の『もう一度』は少し毛色が違いますが、他の二つは主人公は自分は”異端児”であるという自覚があるものの、同乗している人は世の中に上手く溶け込むことができている”普通”の人です。
乗り物に乗っているときだけ、主人公は他の人と同じ速度で、同じ場所に向かうことができる。
そしてその乗り物から降りてしまえば、自分の足で道を選んで進んでいくしかない。
それがどんなに難しくて苦しい道でも。

だから『魔法(よりもっと不確か)』では芽衣子はタクシーから降りて、自分の足で階段を上っていきますし重要な決断は自らの足で行います。親友のために身を引くことを決めたときも自分の足でその場を去ります。
『扉は開けたままで』では奈央がバスで頑なに佐々木に対して冷たい態度を取っていましたが、突然佐々木に名刺を渡しキスまでしてバスを降りしっかりとした足取りで歩いています。
『もう一度』でも夏子とあやはお互いにエスカレーターから降りたあと、もう一度出会うため逆方向のエスカレーターに足を向けます。ラストシーンではあやがエスカレーターと歩道橋を全速力で走り夏子の元へ向かいます。

彼女らの歩み出す一歩にはこれ以上ないくらい強い意志が感じられるのです。

この三部作は全てこの構造から成っているように思います。
濱口監督の作品が全てこういう作りになっているかはまだ確認できていませんが、『ドライブ・マイ・カー』も原作があるといえどもこの作りになっていましたよね。
そう考えると乗り物は濱口監督作品に欠かせない要素であると言っても過言ではないかもしれません。

彼女は私だと思える魅力的なキャラクター

自分が”異端児”であると少しでも思ったことがある人、そこまでではないものの世の中の”常識”や”普通”に照らし合わせてそこに属すことが容易ではないと感じたことがある人は『偶然と想像』の登場人物に強く共感するのではないでしょうか?
特にカメラを正面から見つめ、語り掛けてくる登場人物の言葉を全身に受けると「世の中の異端児であると感じていたのは自分だけではない」と救われる気持ちになります。

面白いのはどの作品でも皆「自分は異端児である」と自覚しているものの、残念ながらその部分を自分の力では矯正することはできない。または、矯正しようとはおもっていないということです。
なぜなら異端である部分は他人から観て魅力的に映ることもあるから、そしてそんな自分を彼女たちが受け入れているから。

私が深く共感したのは芽衣子で、彼女は好奇心や自分が一度思ったことは行動してみないと済まないタイプ。
それが異常であったり誰かを傷つけると分かっていても自分を止められないんです。
私も「好奇心は猫をも殺す」を地で行くタイプ。そのせいで人を傷つけたし今後もそういうことは多々あるかもしれない。
一度、自分のその行動でどうなるのか想像できればいいのだろう。
想像力は自らも他者をも救う力であるのだから。
それが出来たとき、大きな自信になるかもしれないし素敵な明日を迎えられそうな気がします。

皆さんは誰に共感したでしょうか?
それとも、「この人達頭おかしいな」と思ったでしょうか?
誰しも異常な部分はあると思います。
そんなところも自分では受け入れて何も矛盾はなくそういう人間なんだと肯定してあげる力も時には必要かもしれませんね。

『偶然と想像』まとめ

偶然と想像』の感想はいかがだったでしょうか。
濱口監督は映画内でいろんなメタファーを登場させているように感じるので自分なりにああじゃないか、こうじゃないかと考えるのは楽しいですね。

あと分かる人は教えて欲しいのですが『魔法(よりもっと不確か)』で最後に芽衣子がスマホで写真を撮っている場面で出てくる花は山茶花で合ってますよね?
これ、山茶花だよなぁと思ってすごく印象に残って家に帰って花言葉を調べたら赤い山茶花は「謙譲」「あなたがもっとも美しい」だそうで……。
あそこで身を引いた芽衣子のことを考えると、ここで山茶花が映るのも納得ですね。
芽衣子の笑顔がより輝いて見えました。

偶然と想像』で濱口監督の作品にハマってしまったので、見逃していた『ハッピーアワー』や『寝ても覚めても』あたりを観返したいと思います!!!

『偶然と想像』はまだ劇場で観られますので感染対策を万全にして映画館に足を運んでみてくださいね!!
あと『ドライブ・マイ・カー』も劇場によってはまだ上映してますし、Blu-rayも予約が始まってますのでお忘れなく。
私は2回観に行きましたし、Blu-rayも予約しました(笑)