『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は最近存在感を出してきているスタジオの「A24」が手掛ける作品。
SNSと共に生きるティーンの成長・日常をリアルに描いています。
ボー・バーナム監督自身の経験からをもとに脚本を書きメガホンをとった、ある種個人的な体験に焦点を当てた映画なのではないでしょうか。
★第76回ゴールデングローブ賞(2019年)
目次
エイス・グレード 感想・考察
『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は8年生(13歳)の女の子の日常を描いた作品です。
特に内面にフォーカスしつつ、SNSと現実世界の葛藤が見えるのが魅力。
今回は三つの点に着目して考察していきます。
●ティーンのリアルな葛藤
●父親の存在
●四川ソースで盛り上がったわけ
ティーンのリアルな葛藤
映画の始まりはケイラが動画を撮っている場面から始まります。
観客が最初に観ているのはケイラの撮っているYoutubeの動画です。
“自分らしく”をテーマに語るケイラのクローズアップから引きの画に変わり、彼女が自分の部屋で一人Youtubeの動画を撮っていることがわかります。
ティーンの生活はSNSと直結しています。
好きな人のことを知るのも、クラスメイトが何をしているのかも、世界で何が起きているのかも…
全てリアルよりもSNSやネットを通して知る生活です。
自撮りをしても「いいね」がつくことはなく、リアルでも彼氏はおろか友達はいない。
自己肯定感が下がりまくるのは当たり前のように思います。
ティーンは誰かから承認されることが必要な時期です。
それは友達でも、親でもいい。
ケイラにとって心が許せる人が一人もいないのがこの物語を陰鬱なものにし、よりリアルな葛藤へ導いているように思えます。
父親の存在
この映画の一番のキーマンは父親のマークです。
マークはケイラをとても大切にしています。
だからといって一般的にみて過干渉というわけではありません。
もちろんマークはケイラと話しがしたいと思っていますし、変な人間関係に巻き込まれないか心配しています。
そんなマークの心境は行動に現れてます。
●毎週金曜日はケイラの好きにしていい曜日にしている
●寝る前に毎日おやすみを言いに来る
●先輩と遊びに行ったモールについてくる
勿論父親なので、娘が何を考えているか分からないことも多く、空気を読めない行動もとってしまいます。
●ケイラの部屋にいきなり入ってくる
●聞いちゃいけないことをわざわざ聞く
●心配で遊ぶ現場についてくる
●一つだけと言いながら沢山しゃべる
ケイラが辛いときはいつも心配し、隣にいてくれます。
口下手で思うようにケイラとコミュニケーションをとれないことも多いですが、その不器用さが逆に素敵ですよね。
「すごく思いやりのある子だと褒められた。僕は何もしてないのに。」
「ケイラは自分でここまで育ってくれた。僕はただみてただけだよ。」
そういってケイラのことを慰めてくれます。
自分がティーンの頃にこんな父親がいてくれたら…。
以前のような高圧的で家族をむりやりでもまとめようとする父親像ではなく、程良い距離をとり見守り受け入れてくれる父親像が多く描かれるようになった気がします。
例えば『君の名前で僕を呼んで』のエリオの父親のように、いいことも悪いこともすべて知って受け入れてくれる。
そんな父親像が増えてきました。
世代が移り変わりそのようなスタンスが多くなったのかもしれませんし、そんな父親像が現代の理想なのかもしれませんね。
マークのおかげでケイラは毎日をとにかく必死に生きよう。
悪いことも良いこともどうせ過ぎ去っていくんだから。
そう思えるようになるのです。
この映画で不完全なケイラのことを包んで受け入れてくれる存在が、唯一父親のマークなのです。
四川ソースで盛り上がったわけ
ケイラがゲイブに自宅に招かれてナゲットを食べる場面でティーンらしい会話がされます。
「ナゲットには四川ソースが一番だよね!」
「四川ソースだよ、モーティ!!(モノマネ)」
とゲイブがおどけてケイラが初めて素直に笑います。
正直日本人にとっては、なぜ盛り上がってるか分からないシーンですよね。
二人が盛り上がっているのは
『リック・アンド・モーティ(Rick and Morty)』
というアメリカのアニメの一場面で四川ソースが話題になったからなのです。
四川ソースはアメリカのマクドナルドで実際に開発されたソースです。
1998年にアニメ『ムーラン』とのコラボで発売されたそうです。
そんなに美味しいのなら一度食べてみたいですね(笑)
『リック・アンド・モーティ』はDVDや動画配信サイトでみることが出来ます。
四川ソースの回はシーズン3の第1話ですよ!
エイス・グレード まとめ
アメリカのティーンをリアルに映した映画なだけあって、出てくるものがアメリカのティーン文化を反映しているのが細かい演出で面白かったです。
タイムカプセルの箱の中身はこんな感じ。
●スポンジ・ボブのUSB
●『シュガー・ラッシュ』と『LEGOムービー』の半券
●ジャスティン・ビーバーの写真
アメリカのティーン文化は日本人にも馴染みのあるものも多いので、そこまで違和感なくみれるのではないでしょうか。
ケイラの自身のなさが持ち物や姿勢に反映されているのも、「ああぁ、この子はスクールカースト最底辺なのね。」と言葉がなくても理解できます。
イケてる子はビキニを着て、流行りのスポーツメーカーのリュックで登校。
ケイラは常に猫背、緑のスク水を着て、名前入りのリュックで登校。
今のティーンはSNSネイティブ世代です。
いつでもどこでも繋がれてしまう時代だからこそ、強い繋がりが損なわれてしまう。
単純に目立つ子だけが更に目立ち、そうでない子の自己肯定感は下がる一方。
いいねの数が多いほうが偉いのか?
動画の再生回数が多いほうが偉いのか?
人の本質はいいねの数では決まりません。
自分がいままでしてきたこと、成長してきたことを肯定してあげることが一番大切なのです。
そのためにも自分の味方が自分を含めて一人でもいることは大切なことです。
そんなことを悩み気づき始めるティーンの等身大の物語が『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』では描かれています。
ティーンの娘さん、息子さんを持つ親御さん。
ティーンまっただ中のあなた!!!
ぜひ『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』をバイブル映画としてご鑑賞ください。